作品の感想

「南極料理人」の感想。映画っぽくないのに笑えて感動してお腹がすく映画。

殺伐とした人間関係や事件性、派手なアクション、ホラー要素、胸躍るファンタジーやSF要素、波乱万丈のストーリー、以上はこの作品に一切出てきません。
ひたすら淡々と、一年間の南極観測ライフを再現したかのような場面が続きます。
それでいて二時間半苦笑いが止まらないじわじわくる面白さと、なぜかほろっと泣けてくる感動が詰まっているので、ドキュメンタリーとのんびりしたホームドラマ、両方好きな人にはぴったりだと思います。

作品情報

出演: 堺雅人, 生瀬勝久, きたろう

監督: 沖田修一

ストーリー&見どころ

西村(堺雅人)は、ドームふじ基地へ南極観測隊の料理人としてやってきた。
限られた生活の中で、食事は別格の楽しみ。
手間ひまかけて作った料理を食べて、みんなの顔がほころぶのを見る瞬間はたまらない。
しかし、日本には妻と8歳の娘と生まれたばかりの息子が待っている。
これから約1年半、14,000km彼方の家族を思う日々がはじまる・・・・・・。

アマゾンより

「南極料理人」のネタバレなしの感想

南極観測隊員の実際の体験記を元にした、ドラマらしいドラマがほとんど起こらない作品です。
一年間の滞在中の、真面目な観測やその合間の遊び、ちょっとした人同士のトラブルなどのイベントが箇条書きのように並べられるだけで、別に誰かが遭難しそうになるわけでもなく、巨大な生き物に襲われるわけでもありません。
しかし、隊員それぞれが個性豊かで、何に対しても懸命で楽しそうですから、そんなものは無くとも何故か引き込まれてしまいます。
特に、主人公である原作の作者は料理担当という事で、その彼が過酷な環境の中で工夫しながら作り出す「普通に美味しそうなまかない飯」の描写が、この作品のメインテーマになっています。
命を繋ぐ最も直接的な要素「食」が、余計な説明セリフや薀蓄などなく、ただただ無言で飯を食う8人のおっさん達の姿に強烈に印象づけられることでしょう。




※ここからはネタバレありの感想になります。まだ見ていない人でネタバレはちょっと困るって方は見ないようにしてください。



「南極料理人」のネタバレありの感想

本作は全くといっていいほどドラマ性がないので、ネタバレらしいネタバレも無いに等しいのですが、個人的に必見だなと思うのは以下の三シーンです。

まずは主人公がお守りとして持ってきた娘の乳歯を、他の隊員のうっかりで地下深くに失くしてしまい、塞ぎこんでしまう所。
拗ねて料理を作らない彼の代わりに、その日は不慣れな皆でご飯を作るのですが、出来上がった「ベチャっとしたから揚げ」に、妻の手料理を思い出して感極まって食事する姿には、単身赴任の悲哀が溢れていて涙を誘います。

次は、遠距離恋愛中の隊員が南極滞在中に振られてしまい、傷心のあまりいつも使っていた電話のオペレーターに恋をしてしまうエピソード。
現実だったら通報案件にもなりかねないアグレッシブさですが、何とその恋はラストの日本帰還で実ってしまいます。

三つ目は「材料足らないけど、手打ちラーメンが食べたい」という隊長の無茶ぶりの場面。
当然ここは南極ですから、アレがないといって近くのスーパーに走っていく事は不可能です。
それを今あるもので化学的に代用し、見事にラーメンを作ってしまうところは、「むさいオッサン連中に見えても、さすがは各分野のエキスパート集団だな」という驚きを覚えると同時に、「食べたいものが食べれるって幸せだね」という当たり前の事を気付かせてくれます。

観終わった後は「普通の暮らしって恵まれてるな」「世界一の料理は、温かいお家ご飯だな」「それでも、何だか南極行ってみたい気がしないでもない」のいずれかの気持ちがわいて来る事必至です。